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アスリートの糖質摂取の考え方・パート12

糖質の考え方12
目次
・はじめに
・糖質とたんぱく質を同時摂取する意義
・おわりに
 
本文
・はじめに
 アスリートの糖質摂取の考え方もいよいよ最終回になります。これまで全12回の糖質摂取の集大成となります。最終回はその他の栄養素との組み合わせの意義について取り上げたいと思います。
 前回は糖質の質を高めるために糖質の中で複数の糖類をとることを紹介しました。今回はエネルギー産生栄養素(三大栄養素)の中でもたんぱく質を同時摂取する意義についてご紹介します。栄養素は組み合わせることで様々な相乗効果が得られるということを学んで頂ければと思います。
 
・糖質とたんぱく質を同時摂取する意義
 さて、最近は生理学的な観点の話が中心となっていたので、糖質摂取の目的を忘れていないでしょうか。糖質は競技をする上でとても大切なエネルギー源になります。では、体内で糖質はどのような形で蓄えらえていたでしょうか。
 
 ここまでコラムを読み進めている方はすぐに答えがでてきたでしょうか。
 
 答えは・・・
 
 「グリコーゲン」です。
 
 すなわち、運動前であれば、どれだけグリコーゲンを体内に蓄えておくか、運動後であれば、どれだけ速やかにグリコーゲンを回復させるかが、選手にとっては重要なことになります。
 
 Ivy JLら(2002)では、糖質とたんぱく質の同時摂取と糖質の単独摂取(高糖質及び低糖質)において、筋グリコーゲンの回復を実験的に観察しています(図 参照)。糖質とたんぱく質はそれぞれ4kcalとされており同等のエネルギーを生み出す栄養素です。したがって、糖質(80g)とたんぱく質(28g)のグループと高糖質(108g)のグループは同じエネルギー量であることが分かります。しかし、この研究の結果では、糖質とたんぱく質を同時に摂取したグループで糖質単独摂取のグループに比べて、筋グリコーゲンの貯蔵量が高まったことが示されています。
 
 すなわち、糖質とたんぱく質を同時に摂取するということは、筋グリコーゲンの回復という観点で優れているということになります。
 
・おわりに
 このように複数の栄養素を組み合わせることで様々な相乗効果が得られるということは非常に面白い栄養学の不思議ともいえます。同様にこの効果は、たんぱく質の筋タンパク質合成を高めるという観点でも相乗効果がみられます。この筋タンパク質合成の効果についても、別の機会に紹介できればと思います。
 
 前回に続き、今回も複数の栄養素や物質を摂るべきというお話をしました。今回は、糖質とたんぱく質です。糖質は主食、果物などに多く含まれており、たんぱく質は主菜に多く含まれます。やはりというべきか、最後は、バランスのとれた食事、この一言に尽きるのかもしれません。
2019年04月25日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート11

目次
・はじめに
・糖質の種類について考える
・おわりに
 
本文
・はじめに
 最近は2回にわたり糖質の量について深めてきました。糖質摂取のポイントは「質」を残すのみとなりました。「質」についても2回にわけますので、糖質摂取について12回のコラムを書いたことになります。かなり、糖質摂取について詳しくなったのではないでしょうか。
 
 それでは、糖質摂取の考え方 パート11スタートです。
 
・糖質の種類について考える
 はじめに、炭水化物の基本的な情報は、「基礎栄養学講座パート3」をご覧いただき、復習して頂ければと思います。その際に炭水化物は糖質と食物繊維に分けられるという話、また、糖質の中でもグルコースがエネルギーの中心的な役割をするという話をしました。
 
 さて、今回はこれまでの話をさらに深めたいと思います。そもそもグルコースとは何でしょうか。例えば、ごはんの中には糖質が豊富に含まれていますが、それはグルコースでしょうか。答えは半分正解というところです。
 ごはんの中に含まれる糖質は正確にはでんぷんという形で、グルコースが長く繋がった物質になります。このでんぷんが消化の過程で切り分けられグルコースの形になります。
 
 では、皆さんは、フルクトースというものを聞いたことはありますか。「果糖」と書くと、何か聞いたことがあると思いませんか。果糖という名前の通り、果物中に豊富に含まれており、グルコースよりも甘味が強い物質になります。このフルクトースもグルコースと同様に最も小さな糖類の一つになります。
 
 そして、今回最後に紹介するのがガラクトースです。ガラクトースは牛乳などの動物の乳汁中に含まれています。牛乳などを飲むとほのかに甘味を感じるかと思いますが、その甘味も糖類が含まれているわけです。
 
 グルコース、フルクトース、ガラクトースが主な単糖類とされ、最も小さく分解された糖類になります。この3種類の糖類がくっつくことで、例えば、でんぷん、砂糖、乳糖などの異なる糖質になっているのです。
 
 さて、ここで重要なことは、さまざまな糖質は消化されていくと、単糖類になるということです。単糖類は、小腸で吸収されますが、それぞれの単糖類には入り口が存在し、この入り口は鍵と鍵穴の関係で決まった入り口からでないと入り込むことができません。そのため、一つの入り口に多くの単糖類がやってくると入り口で渋滞してしまうというわけです。より効率よく、体内に多量の糖類を入れたい場合は、複数の単糖類になるように栄養補給をすることが有効であることが知られています。
 
・おわりに
 非常に細かい部分で、小さな差のように感じるかもしれません。実際、目に見える効果が得られるかどうかは、明らかでない部分もあります。しかし、そのわずかな差の中で勝負をしている選手にとっては、この差が明暗を分けるかもしれません。
 
 特に大切な試合の前や練習前には、細かな部分にこだわった糖質摂取をしても良いかもしれません。グルコースは主食に、フルクトースは果物に、ガラクトースは牛乳・乳製品に多く含まれています・・・感の良い方はお気づきでしょうか。結果的に主食、(主菜)、(副菜)、果物、牛乳・乳製品という食事の基本形が効果的だということです。
 
 
2019年04月11日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート10

糖質の考え方10
目次
・はじめに
・糖質の摂取量を考える パート2
・おわりに
 
本文
・はじめに
 引き続き、糖質の摂取量を話題にしていきます。
 前回は摂取量を考える上で基本中の基本でもあるエネルギーに対する摂取割合のお話をしました。この考え方は、一般の方の食事にも対応ができるため、選手だけでなく、家族の食事にも当てはめて頂ければと思います。
 
 今回は、選手向けの基準をご紹介したいと思います。IOC(国際オリンピック委員会)が発表しているコンセンサスで、糖質の摂取量の目安です(図参照)。すでにご存じの方も復習していただければと思います。
 
・糖質の摂取量 パート2
 IOCのコンセンサスですので、単に日本人選手だけではなく、国際的な基準として世界中のあらゆる競技者で参考とされています。すなわち、体格や競技種目の枠を超えての基準となります。
 
 たんぱく質摂取も体重あたりの摂取量で示されていますが、糖質も種目特性や練習量に合わせて、体重あたりの摂取量が示されているのがこのコンセンサスの特徴になります。例えば、一般的な競技者であれば、1日に体重1㎏に対して5~7gの糖質摂取量が望まれます。体重が70㎏であれば350~490gということになります。これを前回の指標でもあるエネルギーの摂取割合に当てはめ、3000kcal/日を摂取したとすれば、413~488gの糖質摂取になるため、摂取割合で考えても70㎏の人が3000kcal以上をバランスよく食べていれば不足がないということがわかるかと思います。
 一方、持久的なトレーニングをする場合、体重1㎏あたり7~12gとその範囲が少し多くなります。持久的なトレーニングでは多くのエネルギー消費が多くなるため、摂取量が多くなることはもちろん、比較的、体重の軽めな選手も多くなるため、体重1㎏あたりの摂取量が増えてきます。しかし、例えばマラソン選手などは、多くのエネルギー摂取も必要となるので、よほどバランスの悪い食事をとっていなければ、上述の一般的な選手と同様に大きく不足することはないでしょう。
ただし強化合宿などで長時間の練習をする場合は、体重1㎏あたり10~12gと下限も高い値となりますから、そういった場合は注意が必要かもしれません。
 
 また、運動直後の速やかな回復を考える場合、回復時間に応じて、摂取量が変わります。1時間につき体重1㎏につき1gの糖質摂取量が必要といわれています。あまりに短時間の場合は、この摂取量をとると十分に消化しきれない可能性もあるので、もう少し減らした量でも良いかもしれません。
 
・おわりに
 最後にこの糖質摂取量の考え方の良い点は計算が比較的しやすく、身近な数値である体重を基準にしていることだと思います。選手の皆さんも自身の体重は把握していると思いますので、炭水化物(糖質)の栄養表示は必須項目ですので、補食や食事の準備の際には栄養表示の確認をしてみてはいかがでしょうか。また、自分がどのくらいの練習量であるのか、どういった競技特性があるのかが把握できず、どの数値がわからないかがある場合は、身近な栄養の専門家(栄養士など)に尋ねるとよいでしょう。
2019年03月28日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート9

糖質の考え方9
目次
・はじめに
・糖質の摂取量を考える パート1
・おわりに
 
本文
・はじめに
 糖質摂取は正義か悪かという話題から始まり、糖質摂取についてのコラムもいよいよ終盤に差し掛かりました。最近、一般書籍では、糖質摂取、インスリンの過剰分泌と肥満(病的)の関係について言及しているものがあります。功罪については、初回で述べていますので、そちらを見て頂ければと思います。
 
 そういった話題図書もある中で、競技者目線、病的な肥満解消ではなく、あくまでも「勝つ」という視点でこのコラムは引き続き書いていきたいと思います。
 
・糖質の摂取量を考える パート1
 さて、栄養学は難しいと感じている人は多いかもしれませんが、食事のポイントは、「質(内容)」「量」「タイミング」の三要素に分けることで、非常に理解しやすくなります。
 これまでの糖質摂取は「タイミング」という視点に重きをおき、運動前、中、後ということでそれぞれの考え方をお伝えしてきました。今回のコラムでは、「量」について取り上げたいと思います。
 
 「量」といっても、体格だけでなく、運動量や運動の種類が異なれば、糖質摂取の「量」は、当然ですが大きく異なります。では、どのように考えるのが適切なのでしょうか。
 
 一つ目の考え方として、摂取しているエネルギー量に対する糖質の摂取割合という考え方があります。「PFC比」という言葉をご存知でしょうか。PFCとは、それぞれ「たんぱく質」「脂質」「炭水化物(糖質)」の英語の頭文字で、三大栄養素(エネルギー産生栄養素)と言われるエネルギーの材料となる栄養素を指しています。1日摂取するエネルギーに対する栄養素の割合を示したものが「PFC比」となります。
 一般的な競技者では、「たんぱく質(P)」が12~20%、「脂質(F)」が20~30%、「炭水化物(C)」が55~65%程度が望ましいとされています。一般的な和食はこの基準の範囲に比較的収まっていることからも、和定食のような形をイメージすると良いかもしれません。一方、洋食などでは、脂質の摂取割合が比較的高く、糖質の摂取割合が低くなることがあります。
 
 1980年のCostillらの研究(図参照)では、糖質摂取割合の高い食事と低い食事の2パターンで、筋肉グリコーゲン量がどのように変化するかを調べた研究があります。毎日2時間のトレーニングを行った場合、高糖質食群ではグリコーゲンが毎日回復しているのに対して、低糖質食群では、日に日に筋肉中のグリコーゲンが低下していることがわかります。
 グリコーゲンの低下は、運動中のエネルギー不足を起こすだけではなく、筋肉の分解を増やしてしまう可能性があることはこれまでにもお伝えしています。運動で消耗したエネルギー源は可能な限り、その日のうちに回復させていくことが、日々の練習の効率、効果をあげることはもちろん、連日のトーナメント大会のような試合での競技成績に影響することはいうまでもないでしょう。
 
・おわりに
 このように1日のエネルギー摂取に対する糖質の摂取割合が極端に低いことは、グリコーゲンの回復という観点で良くない影響があります。しかし、一般的な和食は高糖質食に近い理想的な糖質摂取を可能とします。
 和食文化をもつ日本人選手は、すでに食のアドバンテージを持っているかもしれません。選手のために新たな食事や料理を準備しなければいけないと思うと、意外と負担になるのではないでしょうか。実際はそんなことはなく、家族が同じ食事を食べていても選手に必要な食事を準備することが可能なのです。この機会に和食(特に定食型の食事)を見直してみてはいかがでしょうか。
2019年03月07日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート8

糖質の考え方8

目次

・はじめに

・糖質摂取のタイミングと種類について

・おわりに

 

本文

・はじめに

 引き続き、糖質摂取のタイミングについて話題とします。

 これまで、運動前・中・後というタイミングの話をしました。特に運動後にインスリンを考えることがポイントであることも話をしています。今回はこのインスリンを絡めて、タイミングと質を合わせて糖質摂取を考えたいと思います。

 

・糖質摂取のタイミングと種類について

 さて、ここで復習をしたいと思います。たんぱく質摂取でも話題にしていますが、食品には吸収の早いものと遅いものがありましたが覚えているでしょうか。糖質にも同様の考え方があり、同量の食品をとった際に血糖値が早く上がるものとゆっくりと上がるものが調べられています。

 その数値をグリセミックインデックスといいます(図参照)。たんぱく質の吸収速度と同様に素早く血糖値が上がるものはすぐに血糖値が落ち、ゆっくり血糖値があがるものは緩やかに血糖値が落ちていきます。インスリンは急激に血糖値が上がった場合に血糖値を下げる(= 組織に取り込む)という働きがありますから、前者のような場合に多く放出されます。

 

 グリセミックインデックスまでこだわることがどこまで有効であるかということは、まだまだ研究途中ではありますが、グリセミックインデックスと糖質の摂取タイミングを考えることは有効なリカバリー手段を考えるうえで重要であることが最近の現場では認知されています。

 

 例えば、トーナメント戦のように1日の中で複数の試合がある場合の試合間や試合時間が長い中で、随時リカバリーができる競技などでは、速やかなリカバリーが要求されます。その場合は可能な限りインスリンを分泌させることが有効であると考えられるため、グリセミックインデックスが高い食品を選択すると良いでしょう。

 一方でエネルギー補給をして持続的に運動はしたいが体重をコントロールしたい、体脂肪は増やしたくないという場合は、長く血糖値が維持できるグリセミックインデックスの低い食品が有効かもしれません。同様に運動前の栄養補給でも同様のことがいえるかもしれません。

 また、アスリートだけでなく、健康管理をするうえで、血糖値コントロールをしたい場合は、このグリセミックインデックスに注目して食品選択ができることが望まれます。

 

・おわりに

 今回はグリセミックインデックスに着目をして糖質食品を考えました。目的に応じて、タイミング、適した食品を選択できることで、その時だけではなく長期的に見た場合に身体に何かしらポジティブな影響があることが考えられます。研究は日進月歩で、グリセミックインデックスについての情報も徐々に増えています。どういった食品がグリセミックインデックスが高いのか、低いのかは、ぜひ調べてみてはいかがでしょうか。

 

2019年02月21日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート7

糖質の考え方7

目次

・はじめに

・運動中の糖質摂取を考える

・おわりに

 

本文

・はじめに

 前回から引き続き、糖質摂取の話題を続けたいと思います。

 すでにパート7と糖質摂取も奥が深いと感慨深くコラムを作成しています。これまでの糖質摂取のタイミングとして運動前後を取り上げてきました。しかし、タイミングはこれだけなのでしょうか。

 

 スポーツ栄養のタイミングの考え方として、運動前・中・後と分けて考えます。すなわち、運動中ということが抜け落ちているということになります。今回は、運動中の糖質摂取について取り上げたいと思います。

 

・運動中の糖質摂取を考える

 運動中の糖質摂取といえば、思いつくものがエネルギー補給だと思います。古い研究にはなりますが、Coyle, et al.(1986)では、炭水化物を含む飲料と含まない飲料を20分毎に摂取して運動を継続した場合の血糖値の変化を調べました。その結果、炭水化物を含む飲料では運動初期から血糖値は変化せず、運動の持続時間も長かったという報告をしています。すなわち、運動中に適宜エネルギー補給をすることは「運動の持続時間を延長する」という運動中のエネルギー補給の意義を証明した代表的な研究といえます。

 

 そのほかにも古い研究にはなりますが、Poortmans JR (1988)は、運動中の糖質摂取の有無と筋肉の分解の関係を調べています(画像参照)。この研究では、糖質摂取群では筋肉分解の指標の一つとなる血中の尿素窒素濃度が糖質非摂取群に比べて、低い(= 筋肉の分解を抑える)ということを報告しています。この研究の後にも同様の研究がなされ、運動中に摂取した糖質をエネルギー源とすることで、筋肉のたんぱく質を分解してエネルギーに換える必要がなくなるため、筋肉の分解を抑えることができるという発見に至りました。

 

・おわりに

 このように運動中に糖質摂取を行いエネルギー補給をすることは、単に運動の持続時間を延長するような持久能力に関連するだけでなく、筋肉が必要となる瞬発的な競技においても重要であることが古くから知られています。

 皆さんは運動中の栄養補給をどう考えていたでしょうか。単に運動中のエネルギー補給ができれば良いと考えていませんでしたか。そのエネルギー補給が筋肉の分解を防ぐという大事な役割があるということをこの機会に再認識していただけると幸いです。

2019年02月07日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート6

目次

・はじめに

・糖質補給とインスリンの働き

・おわりに

 

本文

・はじめに

 前回から糖質摂取の「タイミング」についてお話をすすめています。糖質摂取のタイミングといえば、「運動前」というイメージが強いかもしれませんが、あえて今回は運動後に着目してお伝えをしています。

 さて、前回のおさらいです。糖質摂取をすると血糖値が上昇するため、血糖を組織に取り込むため、「インスリン」というホルモンが分泌されることは、広く知られていると思います。では、「インスリン」の功罪について、今回はお話したいと思います。

 

・糖質補給とインスリンの働き

 「インスリン」の主要な働きは、血液中の糖質(血糖)を組織(筋肉や肝臓)にグリコーゲンとして蓄えるように指令を出すホルモンです。この血糖調整を行う「インスリン」は、ホルモンの中でも上位に位置するホルモンで、分泌を増やす方法はほとんどありません。すなわち、血糖値を上げるということが、数少ない「インスリン」を放出させる方法といえます。

 

 では、「インスリン」には血糖調整以外の働きはないのでしょうか。

 

 答えは、「No!」です。

 

 「インスリン」は、血糖を組織に取り込むというよりも、血中の様々な物質を組織に取り込む作用を高めることが知られています。例えば、古くから運動後にはたんぱく源と糖質を一緒に摂ると効率よく筋肉がつくといわれていましたが、このたんぱく源を筋肉に多く取り込むようにするというのが、まさに「インスリン」の二次的な作用といえます。また、取り込みを促進することからも速やかな回復が望まれる練習と練習や試合と試合の間隔が短いリカバリーに対しても「インスリン」を可能な限り放出させるというのは、有効な栄養補給戦略といえます。

 

 一方で近年警鐘が鳴らされているのは、筋肉へのたんぱく質の取り込みを増加させるだけではなく、血中の遊離脂肪酸(脂質)を体脂肪(貯蔵できる脂肪)として貯蔵を増加させてしまうという点があります。「インスリン」はこのように様々な物質を組織に取り込むことを増加させてしまいます。

 

 例えば、減量中のアスリートやダイエット中の一般人の方は、リカバリーを優先するがあまり、無駄な体脂肪をつけてしまうということがないように血糖値コントロールも今後のスポーツ栄養サポートの際の課題になるかもしれません。

 

・おわりに

 運動直後の糖質摂取とインスリンの働きについて整理することができたでしょうか。人の身体はまだまだ未知の領域がたくさんあります。ホルモンひとつをとっても様々な作用がおこり、良いも悪いも目的次第では存在します。

 今後ますます、より専門的な栄養管理が必要になった場合、栄養士をはじめとする栄養の専門家が適切なアドバイスができるような体制作りや知識のブラッシュアップが進んでいけばと思います。

2019年01月24日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート5

3スライド

目次

・はじめに

・糖質摂取のタイミングを考える

・おわりに

 

本文

・はじめに

 大変ご無沙汰しておりました!久しぶりの栄養ブログのアップです。

 心待ちにしている方は、アップが遅くなって申し訳ございません。また、初めましての方はよろしくお願いします。

 方々の仕事に追われて、ブログ作成が後回しになってしまったこと反省中です。さて、久しぶりすぎて忘れている方もいるかもしれませんが、引き続き糖質摂取を話題に更新したいと思います。

 

・糖質摂取のタイミング?

 栄養学を考えるとき、私はいつも3つの視点を紹介します。それは、「量」、「質」、「タイミング」です。その中でも今回は「タイミング」を取り上げていきたいと思います。

 

 さて、糖質の摂取タイミングといえば、どういったタイミングがあるでしょうか。一番思い浮かぶシーンといえば、「運動前」でしょうか。その他でいえば、「運動中」という方も多いかもしれません。

 前回紹介したグリコーゲンローディングは、「運動前(試合前)」という典型的な糖質摂取タイミングといえるでしょう。

 残るタイミングは・・・「運動後」があります。

 

 今回のブログでは、「運動後」に着目したデータとそこから得られるメリットやデメリットを時間をかけてお伝えしたいと思います。1988年と遡ること30年、Ivy JL(糖質補給に関する研究の第一人者)らは、同量の糖質摂取を運動直後(0分)と運動後(2時間後)にした場合、筋グリコーゲンの回復に大きな差があることを発見しました。以降、運動直後に食べることは時間をあけて食べるより効果的であることが世界中で広がっていきました(画像参照)。

 

・おわりに

 さて、運動直後に食べることがいかに良いかということはおわかりいただけたでしょうか。なぜこのような現象がおこるのでしょうか。それは、糖質摂取後、血糖値の上昇とともに放出されるホルモン「インスリン」が関係しています。次回はこの「インスリン」の働きと運動直後の糖質摂取の功罪についてお話したいと思います。

2018年12月27日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート4

目次

・はじめに

・グリコーゲンローディングは必要か?否か?

・おわりに

 

本文

・はじめに

 前回は、グリコーゲンローディングの概要について詳細に触れました。グリコーゲンローディングを行うことで、体内にどのような変化が起こるかということは知っていただけたかと思います。

 身体の変化として2点おさらいしておきましょう。グリコーゲンローディングが成功した場合、①グリコーゲンが通常時の約2倍に増える、②同時に水を貯蔵するため体重が2〜3kg増える、という変化が起こります。

 では、この変化について、競技力という面から、グリコーゲンローディングの必要性について考えましょう。

 

・グリコーゲンローディングは必要か?否か?

 まずは、グリコーゲンの特性を知る前に貯蔵場所について復習です。グリコーゲンは肝臓と筋肉に蓄えられています。成長期が終わった成人と仮定すると、肝臓は一般人もアスリートもそう大きさに大差はありません。多少の大きさの違いはあるかもしれませんが、全身の筋肉量の差に比べたら、非常に小さくなります。一方、筋肉量は個体差が大きく、筋肉量が多い人ほどグリコーゲンの貯蔵量も多くなることから、グリコーゲンローディング後の貯蔵量の増加具合は筋肉量にある程度比例することになります。

 

 では、一般的に通常時のグリコーゲン量でどの程度のエネルギー量を貯蔵しているのでしょうか。答えは、「約1000kcal」です。もちろん、全てを運動だけに使うわけではありませんし、グリコーゲン以外に脂質を「数万kcal」蓄えているので、単純にはいかないことは言うまでもありません。

 しかし、練習では数時間かかるスポーツでも、試合時は数分あるいは断続的に數十分という競技がほとんどではないでしょうか。

 

 例えば、野球を例に挙げましょう。野球の試合は約2時間程度かかりますが、実際は、攻守の切り替わりがあり、攻撃中はもちろん、守備中でも動きの少ない野手は多くいるはずです。2時間常に動いているわけではありません。また、攻撃中には多くの選手で栄養補給を行うことができる環境にあります。

 このような競技の場合、すぐにエネルギーに変わるような糖質を随時補給することで、試合終了まで体内のエネルギー源のみで十分な競技能力を維持することができるでしょう。

 

 では、サッカーはどうでしょうか。サッカーは45分ハーフで90分、延長までいくと最大2時間の運動になります。また、サッカーは芝生の関係で試合中にスポーツドリンクを飲むことはできません。グリコーゲンローディングを行うか否か難しいところではありますが、サッカーも断続的な動きが多く、常時動き続けることがないため、体内のグリコーゲンとその他エネルギー源でやりくりをすることができるでしょう。もちろん、試合前に最低限通常時の最大量まで回復しておくことは必要になります。

 

 グリコーゲンローディングが必要とされる代表的なスポーツといえば、「マラソン」でしょう。約2時間を動き続けることになり、もともとの貯蔵グリコーゲンと走行中の栄養補給のみでは、1レース分のエネルギーには不足しているといえます。ただし、あくまでも競技者レベルで一定以上の速度で走っている場合に限られます。なぜなら、脂質もエネルギー利用できる場合は、前述の限りではないからです。従って、市民ランナーレベルの場合は、グリコーゲンローディングというまで張り切る必要はなく、まずは、自分の最大限の糖質量まで回復させるという意識でいる方が、当日の失敗のリスクを考えながらするより、気分的にも走ることに集中できるかもしれません。また、トップランナークラスでもコースによりますが、トラック1万mくらいであれば、体重のお守りを考えると、通常の運動前のエネルギー補給で良いのではないかと思います。

 

・おわりに

 以上のように、グリコーゲンローディングが必要なケースは案外限られているかもしれません。運動愛好者の方が見よう見まねでやることも悪くはないですが、本当にグリコーゲンローディングができているのか、そして必要なのかの見極めは、是非、栄養の専門家のアドバイスを受けてもらえればと思います。

 私個人の考えにはなりますが、競技別にいえば、マラソン、トライアスロン、自転車ロードレース、クロスカントリースキー、概ねこの競技に準ずるような競技に限り、グリコーゲンローディングは有効なように思います。また、競技レベルに関しても比較的高い競技者に限られるのではないかと考えています。

 グリコーゲンローディングを考える前に、まずは、日常の疲労回復は十分かどうか、そして、自分の持てる通常時の最大限まで回復できているかどうかに注目して、試合前の糖質補給を考えてもらえればと思います。

2018年11月01日 09:30

アスリートの糖質摂取の考え方・パート3

スライド1

目次

・はじめに

・グリコーゲンローディングとは?

・おわりに

 

本文

・はじめに

 パート1、2を通じて、糖質摂取のメリット、デメリットについてお話しました。まだ、糖質摂取を最小限にするべきかどうかの議論は、結論に至っていないというのが現状でしょうか。

 そういった中で、やはり根強い糖質摂取メソッドが「グリコーゲンローディング」です。名前を聞いたことがないと言う人はこのブログも読まないと思います。しかし、知っているようで意外と正しく知られていないので、今回はグリコーゲンローディングについてご紹介したいと思います。

 

・グリコーゲンローディングとは?

 「グリコーゲンローディング」は、試合や競技会に合わせて、体内に貯蔵されているグリコーゲンを最大限に高めるための糖質摂取の方法です。グリコーゲンは、肝臓と筋肉に貯蔵されていますが、グリコーゲンローディングを行うことで、通常時のおよそ2倍程度の貯蔵量まで増やすことができます。

 

 「グリコーゲンローディング」の方法ですが、古典的な方法として、目標とする試合などの1週間前に3日程度、糖質摂取量を減らし(糖質摂取割合の少ない(エネルギー比約15%)食事摂取)、体内のグリコーゲンを枯渇させ、その後、糖質摂取量を大幅に増やし(糖質摂取割合の多い(エネルギー比約70%)食事摂取)、リバウンド効果で、体内のグリコーゲンを超回復させるものがあります。しかし、この方法は食事制限も厳しく、枯渇時のコンディションが悪くなりやすいことから、近年では、試合の1週間前は通常通りの食事をして、3日程度前から高糖質食に切り替えるとともに、トレーニング量を徐々に減らしていくことで、体内のグリコーゲンの貯蔵量を増やすという方法がとられています(図 参照)。

 

 いずれの方法でも体内のグリコーゲン量は、通常時より多くなるため、試合開始時に多くのエネルギー源を蓄えてスタートすることができます。

 

 体内にグリコーゲンが豊富にあるとだけ聞くと、メリットしかないように聞こえますが、グリコーゲンローディングには、大きな落とし穴も隠れています。グリコーゲンローディングに成功すると、グリコーゲンを貯蔵するのに必要な「水」も体内に溜まります。グリコーゲン1gに対して3gの水が必要といわれています。グリコーゲンローディングをした際には、前後で約2〜3kgの体重増加が起こります。

 体重が重さになるため、体重増加がかえって競技能力を損なう可能性もあることは知っておかなければなりません。また、グリコーゲンローディングをしているはずなのに、体重が増えていないとなれば、そのグリコーゲンローディングは成功ではないかもしれません。

 

・おわりに

 以上がグリコーゲンローディングの概要になります。グリコーゲンローディングを行うべきか否かについては、次回解説をしたいと思います。意外と糖質を多く食べればいいんだろうと考えているだけの方にも多く出会います。決して、グリコーゲンローディングはそのような単純なものではなく、場合によっては競技力を損なう可能性もあることをこの機会に知ってもらえればと思います。

2018年10月18日 09:30